密林支社は有償販売可能なKDP版電子書籍の作成ノウハウを獲得し、実際にこれをKDPで販売するための経験を積むためのプロジェクトのコードネームです。現在、竹の子書房有志による、技術的検討が始められています。 行く行くは、竹の子書房で得たノウハウに沿って、社内外の誰でもKindle本を出せるように、そして個人ではどうにもならない「マーケティング、プレゼンテーション」などの在り方についても、知見を深めていきたいと考えています。
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密林支社計画案1■序竹の子書房は、電子書籍周辺に関わる様々な課題に取り組む、研究会・勉強会という側面を持ちます。 これまで、電子書籍元年と言われた2010年から電子書籍の大本命Kindleがようやく日本に上陸した2012年にかけて、個人・実務ベースでのPDFによるフィックス電子書籍と、それに纏わる周辺課題の洗い出しを行ってきました。 続く2013年からの研究課題は、ずばり「収益の出せる電子書籍」。
2013年からのフェーズで目指すべきは、
です。
2■電子書籍に関する基本的な理解まず改めて電子書籍に関する基本的な確認です。 電子書籍には大きく分けて、FIX/フィックス/レプリカと呼ばれる形態のものと、Reflow/リフローと呼ばれるものの二種類があります。 2-1 FIX電子書籍FIX電子書籍は、自炊などでスキャナ取り込みした画像を1頁として使うもので、コミック、絵本などに適しています。1頁をまるごと画像として扱うので、紙の底本が存在する場合、電子書籍への移行が非常に楽です。 ScanSnapなどの連続スキャナーで取り込んだJPEGファイルをひとつにまとめた自炊PDF本や、コミック電子書籍はこれに当たります。
また、底本からのスキャンではありませんが、最初からPDFでの出力を念頭において、2010〜2012年に竹の子書房が手がけてきたPDF電子書籍もこれに当たります。
FIX電子書籍はページを拡大したとき、ページの「部分」が拡大されますが、文字などは拡大画面内には納まらず、上下左右が切れてしまいます。
2-2 Reflow電子書籍対して、Reflow電子書籍はフォントサイズを拡大して1頁に表示できる文字数を減らす(頁を拡大するのと同じ)をしても、文章が途切れることはありません。 文章は連続したまま文末が次の頁にリフロー(=溢れる)します。このため、実際には「頁数」という概念がありません。 このように読者の好みに合わせて文字の表示サイズを変えることができるため、小説など文字主体の本に適しています。
また、Reflow電子書籍は文字ひとつひとつをテキストファイルとして管理しているため、文章中の単語に個別のタグやリンクを付ける、キーワード検索など、電子書籍に期待される付加能力を内包することができます。 フォーマットとしては青空文庫形式テキスト、ePub、mobi(kindleフォーマット)などが有望です。
ただし、底本から完パケページをスキャンすれば済むFIX電子書籍と違って、作成に掛かる手間は紙の本を作るのとほとんど変わらない煩雑で手の掛かるものになります。 制作費用も嵩むため、潜在的に多くの紙の既刊本(=未電子書籍化コンテンツ)があるにも拘わらず、過去の財産としての既刊・旧刊の電子書籍化は進んでいません。
3■電子書籍の抱える課題点
ご存じのように電子書籍は既に幾つもの課題を抱えていることが明らかになってきています。 特に、Reflow電子書籍は多くの小説本などの潜在需要があるにも関わらず、刊行に掛かる制作コストが足枷となって出版社も電子書籍化について二の足を踏んでいるのが現状です。
3-1 Reflow電子書籍化に掛かるコストReflow電子書籍化に掛かるコストは、
などがあります。
これらのコストは現状では、過去の慣例から出版社が負担することになっていますが、電子書籍は紙の本と違って「実際にDLされた実売部数分」しか収益が支払われません。このため、収益が見込めるかどうか不確かなコンテンツの場合、先行投資した電子書籍化コストを電子書籍の実際の売上げでは回収できない、或いは回収に相当な時間がかかってしまいます。 出版社はこの「製作コストの焦げ付きリスク」を警戒しており、特に「売れなかったから重版が掛からず絶版になった本」に対して、再度の追加投資を行うことに慎重になっています。
「(その気になれば)著者個人でも電子書籍化作業、登録作業などを行うことはできる」というのは電子書籍の醍醐味かつ大きな魅力ではありますが、電子書籍作成に掛かる煩雑な作業、ある一定の専門知識などはまだ十分に初心者にまで浸透しているとは言えず、著者個人による電子書籍化の十分な普及には至っていません。
3-2 三種のReflow電子書籍またReflow電子書籍はさらに3つ以上の異なる形態のものが考えられます。
3-2-1 紙の書籍と同時に作成される電子書籍まず一つは、「紙の書籍がベースではあるが、最初から電子書籍化が念頭に置かれているもの」。 これは今後最も増えていく可能性が高いもので、紙版の編集制作段階で電子版の編集を並行して行うことにより、製作コストを紙版に統合してしまい、電子書籍化のコスト削減を図るというものになります。 3-2-2 電子書籍化を想定していなかった旧刊既刊二つ目は「紙の書籍として刊行されたが、電子書籍化を想定していなかったもの」。 少なくとも10年以上前の本ともなると、DTP製版されておらず元原稿が電子データで存在していないものも珍しくありません。 それより新しい本であっても、DTP製版作業時のマスターデータが喪失しているものなどは、底本からのOCR取り込みか、著者の持つ草稿データからの再度の編集作業が必要になるなど、紙の本を作るのとさほど変わらないコストが掛かります。しかし、現状で最も膨大な潜在コンテンツとなっているのも、こうした本です。 3-2-3 紙の書籍はなく電子書籍からスタートするもの三つ目は「最初から紙の本ではなく電子書籍として刊行されるもの」。 携帯小説などがこれに含まれますが、最初から紙の本として出すことは計画されておらず、電子書籍版が初出になるものです。 現在この「最初から電子書籍」として計画されたものの多くは、製作コストを削減するため、「著者による校正済み原稿」を受け取ったあと、校正や編集とされる作業のほとんどを行わず、直接流し込むという手順を取っているものがほとんどです。 この手法は制作コストを削減できますが、著者に多くの能力を要求すること、文章を著者以外がチェックする回数がほぼないため、文章作品の精度、品質に大きな制約を作ってしまいます。結果、作品の品質は同人誌とさほど変わらない、「お金を取るには些か難点のある出来」のものになってしまいかねません。 3-3 課題点の克服のために必要な計画こうした電子書籍の抱える課題点の克服を考えることは、実際に個々の竹の子書房社員が自身の本を電子書籍化しようと試みたときにも重要です。 また、竹の子書房以外の場で執筆されている著者や、電子書籍化対応について社内に独自の事業部を持つ余裕のない中小出版社などでも同様の問題を抱えています。
それらを踏まえて、次のロードマップに沿って「収益が出せる電子書籍を作るためのノウハウの獲得」とその発展的展開についての検討と、その実践を行いたいと考えています。
4■ロードマップ
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