竹の子書房は電子書籍を作成、刊行する集団です。 企画への参画者を便宜上「社員」と呼んでいますが、現時点では会社法に基づいた正規の企業法人ではありません。 せっかくだから(ただし全力)と「会社」の風を装うなど外連味が多いことから、同人サークルの類と理解している社員もいます。もちろんそのように見える横顔もありますが、果たしてこれも正しいかどうか。
幾つかある竹の子書房の横顔のうちのひとつとしてよく引き合いに出るのは「電子書籍周辺技術に関する研究会、勉強会」であるということ。 竹の子書房には、商業出版に携わる作家、ライター、イラストレーター、漫画家、画家、アニメーター、デザイナー、校正者、編集者、IT技術者が、それぞれ表向きの名義を伏せて参加しています。 参加目的はこれもまた各人様々ありましょうが、「仕事ではできないことをする」「今更聞けないことを聞く」「仕事で使うノウハウの再構築」「電子書籍に応用できる技術、或いは電子書籍に求められる技術の研究と取得」などなど。 故に、竹の子書房はそうしたプロの遊び場でありつつ自習や自己研鑽の機会でもある――そのように理解しています。
近年、プロが使うための道具が廉価になってきたこと、或いは操作や使いこなしのためのテクニックが、ネットを通じて瞬く間に拡散、シェイプアップされていくという様子を見ることは珍しくなくなってきました。誰かが見つけたメソッドは、別の誰かがさらに研磨昇華させ、さらにそれが別の誰かにとって当たり前の基礎技術として広まっていく。ツールの使いこなしがプロとアマを分けていた時代は終わりを告げ、アマチュア、ハイ=アマチュアとセミプロ、プロフェッショナルの技術的な差は日々埋まりつつあります。 こうした中にあって、いずれ電子書籍を巡る技術も一般化していくだろうとは思われます。 Photoshopが容易いツールになったように、InDesignも容易いツールになり、次世代の電子書籍作成ツールも容易く扱えるツールとしていずれは普及していくのでしょう。
しかし、電子書籍は「ファイルのオーサリングができれば作れる」というものではありません。 原稿の執筆の後に来る編集作業、イラスト素材を再構築するデザイン作業、できあがったものをどうやって周知し、どうやって商品として扱うか。プロであってもそうした「自分の手を離れたあとの原稿が、どのように商品になるか」といった工程に詳しいわけではありません。
電子書籍、デジタルコンテンツの時代におけるクリエイティブは、原稿の作成に留まらず、オーサリング、パブリッシング、プレゼンテーション、マーケティング、そうした様々な要素のセルフプロデュースが求められる、かもしれません。 この先、明日、来月、来年がどうなっているのかもわからない。 まして、作家・ライター・イラストレーター・漫画家・デザイナーなど、出版の最先端にいるクリエイターの多くは、出版社の社員ではありません。ノウハウは黙って待っていてもどこからも落ちてはこないのです。
じゃあ、我々が作って手渡した後の原稿は、どのようにして出版物になるのか。 どのようにして電子書籍になり、どのようにして売り出されていくのか。
そうした出版、電子出版のプロセスを知り、需要にあった原稿提供をこの先していくには、どのような点に力を入れていくべきなのか。
そうした「今更聞けない、今更学べない、教えを乞うにも講師たる手本がどこにいるのかもわからない」ような分野について、「わかるところから手を付けていこう」というのが、研究会としての竹の子書房と言えましょう。
何分にも、どこからも財政面での支援があるわけでもない、まったくもって手弁当の勉強会です。 竹の子書房で抱える課題や作業の多くは、義務ではありません。いずれも自発的なものです。 遊び半分のように見えるものでも、業務で実際に使用しているツールやノウハウを注ぎ込み、本業では絶対に許されない素材やテクニックを試し。うまくできたら後で仕事のほうにも応用したり。つまりは、自主トレの場とも言えます。 もっとも、本業の〆切が忙しくなれば、もちろんそちらが優先。 だから、「無理をしない」「頑張らない」を訓戒とし、その範囲内でできることをする――としています。
竹の子書房は「授業料のない専門学校」に例えられることもあります。 先行する別のプロから学びを得る機会もあります。 竹の子書房から持ち帰られるものがひとつでもあれば、それはそれでひとつの成果。
竹の子書房は、そんな緩やかな研究会です。
加藤万夜/加藤AZUKI(@azukiglg)
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